これはきわめて上質なサウンドだ。メロディアスで耳に快いので、フランス製のお洒落なイージー・リスニング・アルバムとしても聴くことができるが、年期の入ったジャズ・ファンをもにやりとさせるほど凝った作りでもある。その最大の要因は、ホーンを束ねてユニークな響きを聴かせるリーダー、ジルベールの作・編曲の手腕にある。凝ったアレンジが、ジャズの命であるスポンタネイティを減殺することはままあるが、ジルベールは発送の根源にメロディをおき、なによりもメロディアスな美しさを重視している。そのため、アレンジが高度化しても、音の流れが不自然になったり、いたずらにメカニカルになったりすることがない。また、サウンドが分厚くなりすぎることもなく、室内楽的な軽快さをつねにたたえている。楽しく優雅なのだ。そうかと思うといきなりエレキ・ギターをフィーチャーしたり、民族音楽的な彩りを加えたり、ウエザー・リポート風のパノラミックなサウンドをかましてきたりするから面白い。スーパー・サックスのようにアレンジされた長いラインを聴かせるところもあるし、(8)
のようなトラックを聴けば、このグループがジャズの伝統に魅せられ、それをよく消化していることが分かる。そうした細部がうるさ型のジャズ・ファンを喜ばせるのだが、そのスイングぶりはあくまでも軽く優美だ。ジャズの楽しさのなかにあふれるフランス的なエスプリを満喫してほしい。
(中条省平)
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